『マリー・アントワネット』(2006年度版)を観たよ。
「駄作」っていう酷評だらけだよね。でも、私は好きだよ。
『マリー・アントワネット』(2006年度版)
原題:"MARIE ANTOINETTE"
2006年・アメリカ・123分
監督・製作・脚本:ソフィア・コッポラ
製作:ロス・カッツ
製作総指揮:ソフィア・コッポラ フレッド・ルース 他
撮影:ランス・アコード
音楽:ブライアン・レイツェル
出演:キルステン・ダンスト ジェイソン・シュワルツマン
アーシア・アルジェント ローズ・バーン 他
オーストリアの皇女であるマリー・アントワネット(キルステン・ダンスト)は、フランスの王子・ルイ(ジェイソン・シュワルツマン)のもとへ嫁ぐことになる。国の命運を賭した政略結婚だ。そんな婚姻でも、ルイへの思慕をいだいていたアントワネットだったが、夫は彼女に興味を示そうとしない。美しい彼女の体を愛でようともしない。「世継ぎを身ごもれない王太子妃」というレッテルを周囲から貼られたアントワネットは、その重圧の捌け口として、国費を使った豪遊に耽るが……。
賞レースでは、ほとんどと言ってよいくらい、注目されなかったこの作品。確かに、目新しくない。確かに、軽薄。確かに、ストーリィ的な厚みに乏しい。製作費はふんだんにかかっていても、たいした物語ではない。それは認める。そうだと納得せざるをえない。いつもの私だったら、「フランス王宮で、どうしてみんな英語しゃべってんだよ」と、言ってはいけないお約束を敢えてつついて毒を吐くところだ。
しかし、とてもピンクで赤で鮮やかにブルーだ。とても華やかだ。とてもストレス・レスな起承転結だ。マリー・アントワネットを知っている人は多くて、また、優れた史劇映画があふれている現在だから、新鮮味をまったく覚えられなくてもしかたないけれど、この映画は、フェミニンで豪奢で明快。単純という意味で、とても真っ当である。オープニングがキュート。現代的な音楽に乗ってデカダンな様子で現れるマリー・アントワネットと、ポップで愛らしい字体で写し出されるタイトル文字。出てくるもの、全部が全部、可愛くてたまらない。深みはないかもしれないけれど、とことん可愛いったらない。となると、思えてきてしまうのだ。「この際、深みなんて、なくたっていいか」と。
幼い頃、『ベルサイユのばら』に耽った私。あの漫画&アニメで、オスカルでもアンドレでもなく、「マリー・アントワネット」その人が一番好きだった。それをきっかけに、当時を描いた有名な小説や、フランス革命前後についての書籍なども、少しは読んだ。そのため、マリー・アントワネットという人の有名な一生について、入門レベル程度なら一応知っている。だから、今作映画『マリー・アントワネット』を観ながら、混乱したり、意味がわからなくなったりすることは、とりあえずなかった。ただ、印象として、この映画は、「マリー・アントワネットという人の、いいとこ取り」のような気がする。「時代に恵まれなかった悲運の、素晴らしい女性」に仕立てあげすぎのような気もする。だが、それでも構わないのではないか。アントワネットについて嘘をついているわけではないし、アントワネットの入門編としては悪くないし、なにより、アントワネットという史実の人物を題材としたコスプレ映画でも「ソフィア・コッポラ節」は薄れていないし。
コッポラ一族のサラブレットのソフィア。フランシス・フォード・コッポラの娘で、ジェイソン・シュワルツマンと従兄弟。巨匠であるパパ・コッポラに対して、私はなんの思い入れもない。彼の監督作はそれなりに観ているけれど、執着は皆無。だが、ソフィア・コッポラの監督作品は、私にとって、とても不思議なのだ。『ヴァージン・スーサイズ』も『ロスト・イン・トランスレーション』も、やろうと思えばいくらでも粗を見つけて文句をつけられるのだけれど、そういった瑕も含めた上で、私はこれらの作品がいとおしくてたまらない。ソフィアが表出した雰囲気が真正面から好きで、この作品世界で呼吸したいとすら望んでしまう。今作『マリー・アントワネット』でも、それは同じだった。自分の感覚にとって決して完璧ではないこれらの作品に、なぜそういった思いをいだけるかは自身でもはっきりとはわからないのだが、単純に「相性がよい」のだと思う。理屈を飛び越えた次元で、空気感が自分と合っているのだ。
キルステン・ダンスト。決して美人ではないと思うのだが、作品によっては、ミステリアスにキュートな魅力を見せてくれる人。『ヴァージン・スーサイズ』しかり、『ウィンブルドン』しかり。政略結婚での御輿入れだというのに、自国・オーストリアからフランスのルイに嫁ぐその直前に、「これから逢う運命の男性にわくわくする無邪気な少女」の顔を、心底からといった様子でしていたアントワネット。結婚後、自身に性的興味をなかなかいだいてくれないルイに対して、失望と諦観のようなものを覚える彼女。その鬱憤を晴らすかのごとく、豪奢な遊びに明け暮れる。ときには、浮気もする(例のフェルゼンに。この映画では単なる脇役だったなぁ、フェルゼン)。それでも、ルイに対する愛情が枯れたわけではない。とりあえず、この映画でのアントワネットは、最後の最期まで、自ら望んでルイとの運命を享受した。アントワネットのその変遷を、キルステンは表情と仕草で見事に表出したと思う。
もしもこの時代のフランス国民に生まれていたら、王家に反感をいだいて、あたりまえだろうとも思う。高貴な人々にはある程度の格が必要とはいえ、その人たちが庶民の金銭感覚や生活基準を根本から履き違えているとなれば、深刻な事件が起こるのはあたりまえだ。国費や税金を、退廃的で無駄な遊びに湯水のごとく使った彼らなのだから。それも、意識や罪悪感すらなしに。この映画では、国民に宮殿を攻撃されたその日ですら、贅を尽くした食事を口にするルイとアントワネットが描かれた。そういった描写ひとつを取っても、当時の王家と国民の認識の食い違いが象徴されている。
とはいえ、前述したように、深みやシリアス性は脇に置いて、視覚的に愉しむだけでも充分の作品。キルステンが着せ替え人形のごとく次から次へと身につけるゴージャスな衣装やアクセサリーを見ているだけでも、わくわくしてたまらなくなってくるし。鮮やかな色彩とバカがつくほど豪奢な無駄にあふれた映像で、目の保養をする。それでよいような気がする。
観た日:2007年2月7日(水)@日劇プレックス
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