『父親たちの星条旗』を観たよ。

►2006/10/25 22:59 

「クリント・イーストウッドの監督作」とは知らずに観てみたかったな、と実は思う。

『父親たちの星条旗』
原題:"FLAGS OF OUR FATHERS"
参考:父親たちの星条旗@映画生活 父親たちの星条旗-シネマトゥデイ
2006年・アメリカ・132分
監督・製作・音楽:クリント・イーストウッド
製作:スティーヴン・スピルバーグ ロバート・ロレンツ
脚本:ポール・ハギス ウィリアム・ブロイルズ・Jr
撮影:トム・スターン
編集:ジョエル・コックス
出演:ライアン・フィリップ ジェシー・ブラッドフォード
   アダム・ビーチ ジェイミー・ベル ポール・ウォーカー 他

 太平洋戦争末期の硫黄島では、アメリカ軍と日本軍の戦闘が長引いていた。しかし、やがて擂鉢山の頂上にアメリカ軍が星条旗を掲げる。その瞬間を捉えた写真はアメリカ国内を沸かせ、国旗を掲げた6人の兵士は国民的英雄となる。そのメンバーだったジョン(ライアン・フィリップ)、レイニー(ジェシー・ブラッドフォード)、アイラ(アダム・ビーチ)の3人は、硫黄島からの帰還後、国債を売るための戦費調達キャンペーンに「英雄」として借り出されて各地を転々とさせられるが……。

 虚しくなってしまったのだ、いろいろと。

 中でもなにが最も虚しかったかといえば、時代を経ても、国が違っても、おおまかな事情はなにも変わらないのだ、ということ。この映画には、「戦争の真っ只中であろうと、安全な場所で豪奢な生活を送っている、アメリカのお偉いさんたちとその家族や取り巻き」が登場する。パーティをひらいた彼らは、そこに帰還兵を招いて、とんちんかんで恥知らずで嘆かわしい能天気な迎えかたをするのだ。最前線で人間同士の殺し合いをしてこなくてはならかった帰還兵たちを。しかし、世界の命運や国家の決断を左右するのは、往々にしてこうした「安全な場にいるお偉いさんたち」のように私には見えてしまう。前述した言葉を、もう一度。「時代を経ても、国が違っても、おおまかな事情はなにも変わらない」 ― そんなことはない、と言う人もいるだろう。実際、そんなことはないのかもしれない。私は世界情勢や政治に疎く、知識や勉強が足らない自覚はあるから。

 ただ、そんな「なんにも知らない私」は、『父親たちの星条旗』を観て、「戦争は嫌だ」と心底思った。こんなことがあってはいけないと、こんな状況に置かれたくないと、心から思った。きっと、この映画を観た人の多くがそう感じるだろうし、また、この映画をつくった人たちだってそう感じたに違いない。

 しかし、なぜ、「お偉いさん」は感じないのだろうか。感じていないわけではないとしても、なぜ声高に言ってくれないのだろうか。「戦争は嫌だ」という、ごく単純な嫌悪と恐怖を。

 あの終戦から、約60年。第二次世界大戦の生の経験を伝えてくれることのできる人たちが減ってきている。私は「戦争を知らない世代」のままでいたいけれど、「戦争を知らない世代」が権力を握って想像力を膨張させてしまうことが恐い。「戦争を知らない世代」だからこそ好戦的になるのも道理だと納得できる部分もあるから、余計に恐い。

 ……幼稚園児のような文章になってしまったけれど、感じたままを敢えて頭をひねらずに書いてみたくなった。そういうふうに思わせてくれた映画だったから。

 さて、クリント・イーストウッドの監督作である。このブログでも今までに何度か書いてきているが、私はイーストウッドが手がけた映画によい意味でやられてしまう確率が高い。「信頼して作品を観られる監督」のひとりだ。そのため、贔屓だの盲目だの尊敬だのといった要素をばりばり含んだぶ厚いフィルターが、私の目を覆っている。逆に、自分が色眼鏡をかけていると知っているからこそ、「冷静に観なくちゃ。きちんと判断しなきゃ」と、そんな必要もないのに意地になって「イーストウッドの監督作だからって、素直に感動しちゃだめだぞ!」と警戒心を募らせる場合もある。そういうばかげた気負いはやめようといつも思うのだけれど、無意識に作用してしまうらしい。今作でもそうだったようで、正直なところ、この作品がすばらしいのかそうでないのか、自分の好みで一刀両断することが、どうにもできないのである。

 エンド・ロールを観終えた直後、真っ先に感じたのは、前述の通り、「戦争は嫌だ」ということ。観ているあいだ、感動に打ち震えたり、鳥肌が立ったり、涙が出たり、といった現象にはほとんど襲われなかったのだが、「戦争は嫌だ。本当に嫌だ」という感覚が、試写会場を出たあとも、帰宅してからも、翌日になってからも、そのあとも、何度も何度も、自身の体内をしつこくめぐる。あとから効いてくるなぁ、と少し驚いた。加えて、旬の美形といってもよいライアン・フィリップや、すっかり大きくなった『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベルが出演していると知っていたから、「彼らはどんな演技をしているんだろう」と結構わくわくしていたのだけれど、映画が始まったと同時にそんなミーハー的好奇心はどこか彼方へ吹っ飛んでいってしまったようで、彼らの美しさを拝むような心の余裕はなくなっていた。それでよかったのだろうと思う。

 映像的にもストーリィ的にも、派手さはほとんどない。戦争を描いたゆえの視覚的にショッキングなシーンもあるにはあるけれど、そういった映像が苦手な私にもそれなりに落ち着いて見ることができた。血なまぐさいシーンが展開される場合でも、この映画、大きな音や劇的な音楽などで脅かしてこないのである。わざとらしい感激や衝撃を演出しようとしていないのだ。この作品に対してとても好感をいだけたポイントのひとつだった。お金をかけて丁寧につくられた、実直な映画である。滋味と優しさ、そして、痛ましさがそのまま旋律になったかのような音楽も、やはり派手ではないのだけれど、鼓膜と心に残っている。

 映画感想文とはまったく言えない、ぐだぐだなテキストになってしまったけれど、この作品を観て「戦争は嫌だ」と感じることのできた自分に、私は無性に安堵した。そして、なぜぐだぐだなテキストになってしまうのかは……、「クリント・イーストウッドの監督作だから」ということなんだろうな。悔しいけどね、なんとなく。

試写日:2006年10月23日(月)@中野サンプラザ

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