『地下鉄(メトロ)に乗って』を観たよ。
常盤貴子さんの、ヴァラエティに富んだ「昭和コスプレ」を見られたのは嬉しかったな。綺麗だった〜。
『地下鉄(メトロ)に乗って』
参考:地下鉄(メトロ)に乗って@映画生活 地下鉄(メトロ)に乗って-シネマトゥデイ
2006年・日本・121分
監督:篠原哲雄
製作:宇野康秀 島本雄二 他
エグゼクティブ・プロデューサー:河井信哉 林紀夫 他
原作:浅田次郎
脚本:石黒尚美
撮影:上野彰吾
編集:キム・サンミン
音楽:小林武史
出演:堤真一 大沢たかお 岡本綾
常盤貴子 吉行和子 田中泯 他
妻子ある40代の真次(堤真一)は、一見平凡な会社員だが、実はみち子(岡本綾)という若い愛人とつきあっており、また、父は会社を興して一流企業に育て上げた男だった。そんな父に反発していた真次は、若い頃に家を飛び出して以来、父親に会っていない。あるとき、その父が倒れたという連絡が真次にはいる。複雑な気持ちのまま地下鉄に乗った彼は、そのまま昭和39年にタイプ・スリップしてしまう。地下鉄を引き金にタイム・スリップを繰り返すうちに、真次は若き日の父・佐吉(大沢たかお)に出会う。終戦直後の東京で「アムール」という名で通っていたかつての父は、破天荒で鉄砲玉のような、なにより情にもあふれた男で……。
浅田次郎先生の小説は好きで、何作か読んでいるのだけれど、この映画の原作は未読。なぜかというと、「ファンタジーだから」。私は基本的にファンタジーが得意ではない。
こういった「時空いじり系のドラマ映画」というと、最近観たところでは『イルマーレ』(2006年度版)を真っ先に思い出す。滋味にあふれる熟したラヴ・ストーリィだったが、「リアリティ重視で、辻褄を合わせたい病」にかかってしまう私には、感情移入しきれない作品だった。『地下鉄(メトロ)に乗って』もそう。内容や雰囲気は、とても感傷的でノーブルでもあって、大人の目を意識した上質のドラマである。テイストとしては、まあまあ好き。しかし、ファンタジー。そして、時空いじり系。なので、はいり込むことが、私にはやはりできなかったのである(「わかってるなら、最初から観るなよ」というご意見は、ごもっとも)。とはいえ、時空いじり系にしては珍しく、辻褄がこんがらかって破壊されたりはしていない。結構上手に説明をつけたラストへ持っていったなぁ、という印象を受けて、素直に感心してしまった。
アムールを演じた大沢たかおさんと真次を演じた堤真一さんの圧巻の巧さに目を奪われて、ふたりのヒロインをあまり注視できなくなってしまった。彼女たちももちろん上手だったのだけれど、少なくとも私の目には、主演の男性たちの勢いと存在感が圧倒的に映りすぎて。
その「ふたりのヒロイン」は、実のところ、揃って「不倫の愛人」。若き日の佐吉の愛人を常盤貴子さんが演じて、真次の愛人を岡本綾さんが演じた。父と息子のそれぞれのキー・パーソンとなる女性を敢えて同じ愛人というポジションにして、かつ、クライマックスへの切なくも苦しい伏線を敷いた点は、そのストーリィ的巧みさに感嘆。
タイム・トラベル・ストーリィなので、昭和初期を中心にいくつかの時代を扱う。それぞれの時代考証にどの程度忠実なのか、当時を知らない上に歴史に詳しくない私には判断できないけれど、時代を飛ぶごとに登場人物のファッションや状況が変わるのは、観ていて単純におもしろかったし、たとえば「陳腐な映像だなぁ」と呆れてしまうたぐいの違和感にも、たいしてかられなかった。結構お金がかけられているのだな、という印象。
……ここまでは、客観的な感想。嘘をついたりごまかしたりはしていないけれど、この映画を観て心底感じた気持ちは交えずに書いてみた。↓《続き》↓は、感情的で短絡的で、読み手を不快にさせる悪意に満ちた幼稚なテキストである上に、映画のネタバレも少しは含んでいるので、それでもOKのかたのみご覧ください。
《続き》
若い頃の父親に会ったことをきっかけに、長年憎んでいた父を真次は赦すようになる。愛するようになる。もっとはっきり言えば、「父を愛しているという事実を、やっと認めるようになる」。真次の母に手をあげていた父を。真次を始め子供たちに厳しかった父を。母とは違う女と通じていて、外に子供をつくった(結果的に、そうはならなかったのだが)父を。
若い頃の父親の生きざまを知ったり、周囲から諭されたり、自分の考えかたに少々変化があったりしたくらいで、「憎しみ」は消えたりしない。憎んだ相手を赦したりなんかできない。真次にそれができたということは、つまり、彼が抱えていた憎しみなど、所詮、甘えた緩い概念でしかなく、また、佐吉でありアムールでもあった父がそれなりの好意を家族から受けてしかるべき人物だった、ということに過ぎない。まあ、「父・佐吉は、実はこんなによい人だったのですよ」というくだりがなければ、この物語はそもそも成り立たないのだから、それはしかたない要素だが。
映画の中の真次同様、私は父を憎んでいた。自分が21歳のとき(家はもう出ていた)に、父の愛人から「お父さんが危篤だから、病院に来て」と言う連絡を受けた。私は行かなかった。翌日、父は亡くなった。
当時、母は離婚しており、父の正式な子供は私しかいなかったから、葬儀で喪主を務めなければならないのは私だった。そのために実家へ戻ったら、本来、近親者しか着る資格のないはずの喪服を着た父の愛人がいた。彼女と父の子供である「私の弟」とやらにも、そのときに会ったのが最初で最後だ。喪服姿のその女が持ちかけてきた財産分与の件について、私もまた喪服姿で、冷静に話し合った(この女は、私をガキだとばかにしたのか、父の筆跡だという「偽の遺言書」を用意していた。三文芝居みたい。私は確かに幼かったけど、そんなもんにだまされるほど素直ではなかった。第一、古臭いB級ドラマでもあるまいし、そんなもんが現実に通用するわけがない)。葬儀に参列している人間の中で、私が親しい相手なんて、誰ひとりいなかった。喪主をして、実家に数日泊まって、葬儀関係の後始末を済ませてから、私は大学生活へ戻った。
「孤独だ」とか「悔しい」とか「むかつく」とか、そういった味わいはしょっちゅうついてまわるものだけれど、父のあの葬儀のときほど、その手の感慨を強く味わったことはない。たかが21歳程度で、どうして自分が独りでこんな目に遭わなきゃならないんだ、とものすごく怒りを感じたのを覚えている。しかし、怒りのやり場はないわけだ。それをもっともぶつけたかった父は死んでしまったわけだし。
私は断言できる。若い頃の父が、どんなにかすばらしい魅力的な人物だったとしても、時代を超えてその父と会ったからって、彼を赦したりは決してしない。できない。私の目の前で母に暴力をふるって彼女を何度も病院送りにした父を、私の友達を酔った勢いで殴った父を、子供時代の私から自由を奪った父を、私は決して赦さない。彼の死に目に行かなかったことは後悔していないし、それどころか、最高の英断であり、まあまあの仕返しだったとも思っている。彼が亡くなってやっと、私の生活に暴力と恐怖はなくなった。目の前でいきなり父が大切な人を殴ったりせず、背後から突然酔った父に首を絞められたりしない生活は、なんて過ごしやすくて幸せなのだろう、と私は現在でも、安堵と共にたびたび実感する。一方で、どうしても消え去ってくれない悪夢を、周期的・習慣的に見る。
『地下鉄(メトロ)に乗って』の真次のように、「親が憎い」という気持ちを持つ人は多い。それを口にする人も多い。実際にそういう人もいるだろう。私だってそのひとりだ。
だが、本当に、心の底から、どうにもならないくらい憎ければ、どれだけ道理で説明のつく事柄や事実で説得されようが、憎い相手を赦すことなんてできない。赦せてしまうのだとしたら、それはそもそも憎しみではない。単なる「嫌悪」や「錯覚」や「意地」のカクテルに過ぎなかっただけだ。
「愛と憎しみは紙一重」? 「愛と憎しみは表裏一体」?
……ばかばかしい。心身賭して誰かを憎んだことがあったら、そんな戯言、思いつきもしないはずだ。
試写日:2006年10月3日(火)@草月ホール
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