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2008年09月13日(土)

『おくりびと』を観たよ。

 きっと、「人を敬う」という気持ちが、美しい儀式を生む。

『おくりびと』
2008年・日本・130分
監督:滝田洋二郎
製作:信国一朗
プロデューサー:中沢敏明 渡井敏久
エグゼクティヴ・プロデューサー:間瀬泰宏
脚本:小山薫堂
助監督:長濱英高
編集:川島章正
音楽:久石譲
出演:本木雅弘 広末涼子 山崎努 余貴美子
   吉行和子 笹野高史 杉本哲太 山田辰夫 他

 チェリストの大悟(本木雅弘)は、所属していたオーケストラが解散したため、突然、無職になってしまった。失意に暮れた大悟は、ウェブ・デザイナーの妻・美香(広末涼子)と共に、故郷の山形へ帰ることにする。そこには、死んだ母が遺した一軒家があるのだった。「どんな仕事でもいいから、就職しなくては」と奔走した大悟は、ある会社のドアを叩く。社長の佐々木(山崎努)が「月給50万円」を提示するその会社で、職種もわからないまま就職してしまう彼。そこで待っていた仕事は、葬式の際に遺体を棺に収める「納棺師」だったのだ。断りきれずに働き始める大悟だが、妻や知人にそのことをうちあけられなくて……。

 山崎努や本木雅弘がおこなう納棺の手際が、とても「美しい」。厳粛なのに鮮やかで、宗教を越えた崇高な儀式のようだ。身内の葬式を出したことはあるけれど、このような仕事を見たことはなかった。

 魂の存在や輪廻転生、死後の世界などを一切信じない私は、「死」というものを、「遺された人間の問題」だと考えている。だから、私が死んだ場合は、自分の遺体なんて、そこら辺にうち棄ててくれてまったく構わないと思っているけれど(犯罪になっちゃうけどさ)、自分にとって大切な誰かが命を落としたら、この映画で観たような納棺の儀を頼んでみたい、とふと思った。「遺された人間」には、とりあえずの区切りをつけるための形式上の出来事が必要なのだ。それが尊厳の意味を静かに噛みしめることのできる儀式なら、申し分ないだろう。

「こういう納棺師に仕事をお願いしたら、『高い』んだろうなぁ」と無粋なことを考えた。しかし、それだけの金を払ってでも、きちんと送り出してあげたいと「遺された人間」に想ってもらえる人は幸せである。そこまでしてあげたいと願える人に出逢えて、自分が「遺された人間」になっても、それはそれでまた、稀有なことなのである。決して、血縁だけの問題ではない。たとえ血がつながっていても、「こいつの葬式になんか、一銭だって金を払うもんか」と苦々しく思うしかできない相手だって、いるのだから。とはいえ、この世には世間体やプライドというものが厳然とあるから、唾棄すべき相手が逝ったあと、葬式を出した上に、その墓の世話まで、それこそ「自分が死ぬまで」やってやらなくてはいけない場合も多いのだが。

『おくりびと』と関係のない話をしてしまったけれど、この作品を観ると、人の死や葬儀について、多方面から考えずにはいられなくなる。「この映画で描かれていることなんて、綺麗ごとだよ」と感じる人もいるかと思うが、たとえそういう部分があるとしても、日頃、なかなか知ることのできない「納棺師」という職業の内情をのぞかせてもらえるだけで、充分におもしろいといえるのではなかろうか。『シックス・フィート・アンダー』という葬儀屋の一家を描いたアメリカの連続ドラマが人気を博したのも、「身近ではない仕事の内幕」を見せてもらえたからこそであろう。

 どうも淡々とした文章になってしまっているが、『おくりびと』を観ていたあいだは、物語の世界にすっかり入りこんで、爆笑していたかと思えば、次のシーンでは涙をぼろぼろ流していたりと、感情的には結構忙しかったのだ。テンポのよい作品で、笑いどころと泣きどころの押さえかたが、とても秀逸。食通の小山薫堂が脚本を務めているだけあって、要所要所で食べ物が上手に使われていることも、美味しい物好きとしては嬉しかった。鱈の白子、干し柿、米沢牛、フライド・チキン……、いずれも優れた小道具と化していたものだ。

 ただ、気になった点がふたつあった。ひとつめは、台詞が全体的に聴き取りにくかったこと。試写会場の音響がよくなかったせいもあったのかもしれないが。特にどの役者が、というわけではなくて、登場人物、誰の台詞にも、「あれ? 今、なんて言った?」とかなり頻繁に感じたのだ。そういえば、『クライマーズ・ハイ』を観たときも、台詞がとにかく聴き取りにくくて、ストレスを覚えたものだった。近年、日本映画を観て、そのように感じることが増えたように思う(もっとも、『クライマーズ・ハイ』は、臨場感を出すために敢えて、声が多方向から入り混じるように録音をした、ということだったが)。

 ふたつめは、主人公夫婦の描きかた。大悟と美香はとても現代的な夫婦で、たとえば、大悟が出勤するとき、ふたりは玄関の「外」で抱きあって、「いってきます」と「いってらっしゃい」をするのだった。こういう若い夫婦って、今は多いと思う。結構なことだとも思う。ただ、そんないまどきの夫婦なのに、家事はすべて美香がやっていた。確かに、彼女は在宅勤務のウェブ・デザイナーだから、家の中の雑事をするのはある意味必然なのかもしれないけれど、……なんだかなぁ。大悟と美香はとても温かい関係で、また、女としても妻としても、大悟は美香をとても尊重しているのだけれど、美香の献身っぷりを見るにつけ、「日本の現状って、まだまだこうなのかな」とやりきれない思いにかられてしまったのだ。本人たちが幸せならよい、ということは百も承知なのだけれど。

 とはいえ、観応えのある映画ということに変わりはない。自分にとっては、年齢・性別を問わずに安心して人に薦められる佳作のひとつとなった。

試写日:2008年9月8日(月)@文京シビックホール

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「私の夫は、納棺師/おくりびとなんです」。納棺師と
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