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2008年02月22日(金)

『エンジェル』(2007年)を観たよ。

 あの台詞で、ノラは報われた。……それに最も安堵した。

『エンジェル』(2007年)
"ANGEL"

2007年・イギリス&ベルギー&フランス・119分
監督・脚本:フランソワ・オゾン
製作:オリヴィエ・デルボス マルク・ミソニエ
製作総指揮:ターニャ・セガッチアン
原作:エリザベス・テイラー
撮影:ドニ・ルノワール
衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
音楽:フィリップ・ロンビ
出演:ロモーラ・ガライ ルーシー・ラッセル マイケル・ファスベンダー
   サム・ニール シャーロット・ランプリング 他

 舞台は、1990年代初めのイギリス ― 貧しい食料品店の娘として育ったエンジェル(ロモーラ・ガライ)は、小説家になって上流階級のレディとなることを夢見ている。そんな彼女を見出した編集者のセオ(サム・ニール)がエンジェルの小説『レディ・イレニア』を出版すると、たちまちのうちに売れに売れた。念願叶って人気の小説家となり、裕福で華麗な暮らしをするエンジェル。そんな彼女に心酔するファンのノラ(ルーシー・ラッセル)はエンジェルの傍近くに仕えるようになり、また、ノラの弟のエスメ(マイケル・ファスベンダー)はエンジェルと恋に落ちるが……。

 フランソワ・オゾン監督初の全編英語作品だとか、ハリウッド黄金期を模したテクニカラー的映像が効果的に使われているとか、パスカリーヌ・シャヴァンヌによるゴージャスな衣装がとびきり魅力的だとか、見どころはいろいろとある。

 しかし、薀蓄なんて、もう、どうでもいい。私には、とにかく直球で「最高」だった。それで充分。

 感想はネタバレして書くので、それでもOKというかたは《続き》へお進みください。

【More・・・】

 フランソワ・オゾン監督の作品をすべて観たわけではないけれど、観るたびに驚かされて、観るたびに異なる印象をいだく。作品ごとに、手応えと雰囲気がずいぶんと違うのだ。

 今回の『エンジェル』にも、「へえ〜、オゾン監督って、こういうコスプレ的文芸映画も上手に撮っちゃうんだぁ」と感嘆した次第。上流階級(たとえ、主人公が成り上がりでも)を舞台に華麗な衣装で繰り広げられる時代メロ・ドラマということで、「女の子の夢」がたっぷりどっしりつまった映像と物語。監督も内容も違うけれど、『マリー・アントワネット』(2006年)を観たときと似たようなわくわく感をいだいた。

 終始、ほほ笑みながら観ていたように思う。主人公のエンジェルが、とにかくいとおしくてたまらなくなってしまって。まるで、作中のノラと自分がシンクロしたかのように。

 エンジェルに心酔して、彼女の死を見届けるまで仕えたノラという女性がいる。演じたのは、ルーシー・ラッセル。エンジェルのファンであり、マネージャーであり、友人であり、家族でもあった女性がノラだが、彼女のエンジェルへの気持ちは一種の恋愛感情だったと私は思う。本人が気づいていようと、そうでなかろうと。

 エンジェルが恋に落ちる相手が、ノラの弟でもあるエスメで、この物語のメインは、エンジェルとエスメの恋愛劇にある。ふたりの恋は単純だがドラマティックで、見応えも充分だったけれど、「エンジェルとエスメの関係を見守っていたノラは、複雑で苦しかっただろうなぁ」と、私はつい考えてしまった。生活していくには邪魔でしかない悶々とした感情にノラは苛まれていたと思うけれど、その源は「嫉妬」だったに違いない、としか私には思えなかったのだ。ノラ本人が自覚していたかどうかは、わからないけれど。

 この映画のラスト、最期を迎える直前のエンジェルが、ノラに言う。「私を本当に愛してくれたのは、あなただけ」といったような台詞を。あの台詞で、ノラは救われたと思う。もしも私がノラだったら、「ああ、生きていてよかったんだ。間違っていなかったんだ」と痛烈に感じたに違いない。エンジェルがノラにああ言ったのを聴いた直後、涙があふれて止まらなくなってしまった。その台詞をやっと言ってもらえたノラと、彼女の自分に対する存在価値に気づいていたエンジェルに、感激とせつなさを覚えるあまり、どうにもならなくなったのだ。

 どこを見てもとびきりゴージャスで、わかりやすく劇的なこの映画なのだが、前述したノラの描写を始めとして、要所要所がとてもシビアで現実的なのである。中でも、「うわ、残酷……」と思った点がふたつほどある。

 ひとつめ。エンジェルの愛犬・スルタンが実は死んでいたと明らかになった刹那、エスメがその事実を小ばかにしたように「くすっ」と笑った点である。その頃、エンジェルとエスメの関係は、結婚したてで、まだいわゆる「蜜月」だった。しかし、エスメという人は、妻のペットが死んだことを鼻で笑えてしまうような男なのだ。つまり、ふたりの考えかたや価値観がまったく異なるという証拠である。あの1シーンで、「あ、この夫婦は巧くいかなくなるんだな」ということが自ずとわかる仕組みになっていた。

 ふたつめ。エスメの浮気相手が、アンジェリカだった点である。売れっ子作家になる前のエンジェルは、豪邸に住む令嬢のアンジェリカの生活に心底から憧れていた。かつてアンジェリカが住んでいた家に住んで、富と名声のすべてを手に入れたかに見えたエンジェルだが、彼女の最愛の夫が浮気していた相手が、くだんのアンジェリカだったのだ。おまけに、エスメとのあいだに子供まで儲けていた。

 エスメとの子供を流産して、その後、子宝に恵まれなかったエンジェル。そんな彼女の妬みと羨望の対象であり、貧乏時代のみじめさの象徴でもあるアンジェリカが、エスメと通じた上に彼の子を産んだのだ。……エンジェルにとって、これほどの衝撃と侮辱はないだろう。「結局、エンジェルはアンジェリカに勝てなかった」というシビアな構図が成り立ってしまうというわけだ。オゾン監督はなんて酷な展開を持ってきたのだろうと思う一方で、これほどアイロニカルで決定的なクライマックスを創りあげた想像力にほれぼれした。単に華麗でドラマティックなだけでなく、リアリティのある痛みがポイントで厳然と生きているストーリィに、すこぶる感心してしまったのである。

 エンジェルを演じたロモーラ・ガライの魅力と力量があったから、この映画は「ただのコスプレ系メロ・ドラマ」を超える佳作になりえたともいえる。一歩間違えば、「鼻っ柱が強くて、わがままで、うるさくて、むかつくだけの女」でしかないエンジェルが、すこぶる愛らしくて脆い「問題は多いけれど、チャーミングで放っておけない女性」として活きたのは、ロモーラが演じたからこそだったのだろうと思う。彼女のエンジェル役の素晴らしさは、言葉では表現できない。「観てちょうだいよ」と言うしかない感じ。

 ロモーラ・ガライという女優さんのことは、『タロットカード殺人事件』に端役で出演していた美人、という程度の記憶しかなかったのけれど、彼女の主演作『ダンシング・ハバナ』を、私ってば、実は観ていた……。あの映画はどちらかというと相手役のディエゴ・ルナのほうが印象的だったせいか、ロモーラのことは、まったくといってよいほど憶えてないんだよな。

『エンジェル』の原作者はエリザベス・テイラーという人。あの女優のリズ・テイラーとは、無論、別人。本国では、ジェーン・オースティンと並び称される作家だという。原作、ちょっと読んでみたくなったな。

観た日:2008年2月11日(月)@シネマイクスピアリ

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↓参考↓
エンジェル@映画生活
「エンジェル」の映画詳細、映画館情報はこちら >>

↓観た作品&関連商品↓
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