『オリヲン座からの招待状』を観たよ。

►2007/11/03 03:43 

 あ、籍、入れなかったんだ。

『オリヲン座からの招待状』
2007年・日本・116分
監督:三枝健起
プロデューサー:佐々木亜希子
原作:浅田次郎
脚本:いながききよたか
撮影:柳田裕男
編集:森下博昭
音楽:村松崇継
出演:宮沢りえ 加瀬亮 宇崎竜童 樋口可南子
   田口トモロヲ 原田芳雄 中原ひとみ 他

 昭和30年代・京都 ― 映画が好きで身寄りのない青年・留吉(加瀬亮)は、松蔵(宇崎竜童)とトヨ(宮沢りえ)の夫婦が営む小さな映画館・オリヲン座に住み込みで働くことになる。映写技師としての技術を、松蔵から習う留吉。まるで本当の家族のように仲良く商売をしていく三人だったが、やがて、松蔵が病に倒れて帰らぬ人となってしまった。失意に暮れるトヨを、懸命に支える留吉。松蔵亡きあとも、トヨと留吉は二人三脚でオリヲン座を守っていくが……。

「こんなに綺麗ごとばっかりで、恋愛関係がうまくいくわけないでしょーよ」と鼻で笑うしかないというのに、矛盾にも涙ぼろぼろ。要所要所で、私ってば、もう泣く、泣く。

「純愛物語」や「人情物語」の教科書が、そのまま映像になったかのような作品。留吉のように真っ正直な「イイ人」は世の中にそうそういるもんじゃないと思うし、トヨのような「人妻だったのに『純潔』が香る」みたいに頭のてっぺんから爪先まで清らかな女もなかなかいやしないと思うし、そもそもこの映画のような「清潔で純粋なエピソード」なんてものが「あるわけないだろ、普通」って思う。

 だけど、こういう人たちは、現実にいなくていい。こういうエピソードも、現実になくたっていい。ただ、「もしもこのような人々が存在したとして、もしもこのような物語が展開されたとしたら」、それはとても温かくて優しくて、胸に大事にしまっておきたい出来事となるはずだ。想像や妄想で終わっても、充分に構わないと思う。

 この映画での宮沢りえさんを見ていると、「清い」という形容しか出てこない。ともすれば貧弱に映るほど華奢で、美しさよりは痛々しさが勝るような容姿なのだが、彼女が演じたトヨは、どこからどう見ても真っ正直に「清く」て、「この女性を護り続けたい」と留吉が思うのは、道理以外のなにものでもないと納得できてしまうほどだった。

 映画の主軸は留吉とトヨのつながりだが、私が最も印象に残ったのは、トヨと松蔵の関係だった。この作品の背景となっている昭和30年代は、まだまだ女が一切の家事に従事していた時代である。そんな世情の中、松蔵が習慣的に行っている家事が、たったひとつだけあった。それは「鰹節を削る」作業で、彼がかいた鰹節で、トヨはおかずの出汁をとるのである。

 この映画では、食べるという行為や、食事の支度にかける描写が、さりげなくもとても緻密に描かれている。トヨは自分で仕込んだ糠漬けを大切に扱い、近所の人からおすそ分けでもらった煮物を笑顔で夫に味見させる。こういった「毎日の食の情景」には、人となりや人間関係が如実に現れるものだと、私は常日頃思っている。ノン・フィクションだろうが、フィクションだろうが。日々の食卓を丁寧に心づくしで用意するトヨは、食事の基本となる鰹節を夫に削ってもらっていた。それが、この夫婦の「日常」だったのだ。ふたりのスタンスだったのだ。

 夫が死んで、トヨは自ら鰹節をかくのだが、……このシーンには、「悲痛」がそのまま映し出されていて、見ていてどうしてよいのかわからなくなるくらい、胸が苦しくてたまらなくなった。鰹節の出汁が毎日の食事の基本であるように、トヨにとって松蔵が生活の中心にいたのだということを、あのシーンは静かに、だが、はっきりと語っていたように思う。

 松蔵亡き後、トヨが留吉と気持ちを交わし合うのは、至極当然のこと。まったく不貞ではないと、物語と接していればわかる。トヨは確かに松蔵を愛していて、留吉は留吉で、松蔵を慕っていた。松蔵を介していたからこそ、トヨと留吉は惹かれ合えたのだと思う。このゆるやかな三角関係を彩って説得力を持たせたのが、今作の中で描かれた「食べ物と人が織り成す情景」だったのではないか。鰹節や糠漬けだけではない。あんパンや南京豆も、この映画の中で役者たちを彩る大切な要素になっていた。重要なシーンの饒舌な担い手だったのだ。

試写日:2007年10月30日(火)@MOVIX川口

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↓参考↓
オリヲン座からの招待状@映画生活
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