『自虐の詩』を観たよ。

►2007/10/06 18:34 

 後半、泣きっぱなし。不覚にも。

『自虐の詩』
2007年・日本・115分
監督:堤幸彦
プロデューサー:植田博樹 中沢晋 他
原作:業田良家
脚本:関えり香 里中静流
出演:中谷美紀 阿部寛 遠藤憲一 カルーセル麻紀
   西田敏行 竜雷太 名取裕子 岡珠希 他

 気仙沼育ちの幸江(中谷美紀)は、絵に描いたような「薄幸の女」。母には捨てられ、父は銀行強盗。おとなになってからは大阪で慎ましく暮らす幸江だが、内縁の夫のイサオ(阿部寛)は、ろくに働きもしないでぶらぶらとしており、気に入らないことがあればすぐにちゃぶ台をひっくり返すという、典型的な「ろくでなし」。しかし、そんなイサオを心から慕っている幸江は、献身的に尽くす。あるとき、ヤクザの親分(竜雷太)が「うちの組に入らないか?」とイサオに声をかけてきた。一方、幸江は自分が妊娠していることに気づいて……。

『包帯クラブ』や『大帝の剣』の堤幸彦監督作品。2008年には、浦沢直樹さんのあの衝撃漫画を原作にした映画版『20世紀少年』の公開も控えている堤監督、私は『自虐の詩』が初体験であった。

「日本一泣ける4コマ漫画」という形容で『自虐の詩』という漫画が人気のことは知っていたが、原作の絵がちょっと苦手なタイプだったせいもあり、読んだことはなかった。しかし、映画版を観た今、原作にも俄然触れたくなった。

 この映画版『自虐の詩』、私にはかなり面白かった。はちゃめちゃで、荒唐無稽で、しかし、ありがちでわかりやすい、思いきり漫画チックで単純なコメディなのだが、物語後半、展開は突然シリアスな「お涙ちょうだい系」になる。この感動パートも意外性はないのだけれど、「どたばたコメディ」が自然になめらかな「感動ドラマ」へと移っていく流れが見事で、「あぁ、この監督、なんて巧いんだ」と驚いた。驚くと同時に、後半はもう泣きっぱなし。メイクが崩れるほど涙した。「こういうキャラクター(イサオのようなろくでなし)は大嫌いで、こんな展開はベタすぎるのに、私ってば泣くなんてっ!!」と敗北感を味わいつつ。エンド・ロールを迎えたときには、泣きすぎて爽快感すら覚えていた。

 細かいディテールも巧い。たとえば、中谷美紀さん演じる幸江は、場末の中華料理屋でパートをしていて、せっかく稼いだ給料もすぐにイサオに取られてしまうという、とにかく「貧乏」と「不幸」につきまとわれた女なのだが、そんな幸江の髪の毛はロングで、それも「毛先は茶髪だが、根元は真っ黒」なのである。いわゆる「カスタード・プリン頭」。幸江はだらしない女ではなく、むしろ、まめ。それなのになぜ、髪に手を入れられないのかといえば、つまり、カットしたり染め直したりするために美容院へ行くお金や時間がない、ということである。主人公の髪の毛を見るだけで、彼女がどれだけ「貧乏暇なし」なのかがわかるという仕組みだ。

 幸江とイサオを演じた中谷美紀さんと阿部寛さんが、笑えるシーンも感動シーンもお手のものといった柔軟な演技で、とても器用に魅せていた。また、幸江が働くパート先の店主を演じた遠藤憲一さんや、幸江の隣室に住むいかにも「大阪のオバチャン」という人物像で笑わせてくれたカルーセル麻紀さんも、役にばっちりはまっていて、脇役も芸達者。 

 たとえどんな理由があろうと、ちゃぶ台をひっくり返すような男は私は大嫌いだが、幸江とイサオの物語を「他人ごと」として観る分には、充分に面白くて、悔しいけれど、涙だらだらになるほど感動的だった。「エンターテインメイトはこうでなくちゃ!」と拍手したくなる作品で、こういう娯楽映画を撮れる監督さんが日本にもいると知って、とても嬉しくなった。

 岡珠希さん演じる高校時代の幸江がジャージ姿で新聞配達をしているシーンからこの映画は始まるのだが、彼女の「脚の長さ」にまずびっくりしてしまった。「ブスで貧乏で地味で不憫な高校生の幸江」という設定だとは百も承知なのだが、岡さんのプロポーションは一般人とはかけ離れていて、「やっぱり、女優さんってすごい存在だ」と、オープニング早々感心してしまったのだった。

 エンド・クレジットの最後にも、映像が用意されている。エンド・ロールが始まったからといって、映画館で席を立たないように。

試写日:2007年10月3日(水)@よみうりホール

↓参考↓
自虐の詩(じぎゃくのうた)@映画生活
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