2009年11月/ 10月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫12月

2007年09月23日(日)

『リトル・チルドレン』を観たよ。

 自分に似ているキャラクターはひとりもいないはずなのに、どの人物にも近しい感覚をいだいた。

『リトル・チルドレン』
"LITTLE CHILDREN"

2006年・アメリカ・137分
監督・製作・脚本:トッド・フィールド
製作:アルバート・バーガー ロン・・イェルザ
製作総指揮:ケント・オルターマン トビー・エメリッヒ 他
原作・脚本:トム・ペロッタ
撮影:アントニオ・カルヴァッシュ
編集:レオ・トロンベッタ
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ケイト・ウィンスレット パトリック・ウィルソン ジャッキー・アール・ヘイリー
   ジェニファー・コネリー ノア・エメリッヒ フィリス・サマーヴィル 他

 郊外の住宅地で、主婦仲間と共にそれぞれの幼い子供を連れて公園に集っているサラ(ケイト・ウィンスレット)は、平穏な態度を装ってはいても、そこはかとない不満と絶望に襲われていた。また、才色兼備でキャリア・ウーマンの妻・キャシー(ジェニファー・コネリー)に事実上「食わせてもらっている」司法試験浪人中のブラッド(パトリック・ウィルソン)は、今日も小さな息子を連れて家事に勤しむ。彼も彼で、心のどこかに漠然としたやりきれなさを覚えながら。ひょんなことから知り合ったサラとブラッドは、自然と惹かれ合い、不倫の関係になる。一方、サラやブラッドが住む界隈に、性犯罪で服役していた小児性愛者のロニー(ジャッキー・アール・ヘイリー)が釈放されて戻ってきて……。

「人間はいつ『おとな』になるんだろう?」と、年齢的成人の二十歳を過ぎてから、幾度となく考えたものだった。

 こういう疑問に結論なんてないのだけれど、最近になってなんとなく思うのは、「いくつになったって、人間が本物の『おとな』になることはないのかもしれない」ということと、「別にそれでいいんだよなぁ」ということ。そもそも、観念的な意味合いでの「おとな」や「子供」という単語は、人間を分類したり分析したりする場合に「ほかに適切な単語がないから」使われているだけの便利な用語に過ぎない。この手のテーマについて本気で真剣に語ると、長く熱くなってしまうから、敢えて深くは書かないけれど。

 で、そういう感慨に共感を与えてくれて安心させてもらえるのが、今回の映画『リトル・チルドレン』だった。

 平凡な住宅地に暮らしている人々の人間模様を、さりげない緻密さで綴った巧みな人間ドラマ。この「さりげなく緻密な人間描写と情景描写」がトッド・フィールド監督は本当にお上手で、『イン・ザ・ベッドルーム』を観たときにも感心したものだったけれど、ひたすら暗かったあの映画とは少し違って、今作『リトル・チルドレン』にはシニカルなユーモアも織り込まれていたから、ともすれば散漫になりがちな人間模様劇がめりはりの効いた内容になっていた。137分と長めの映画だったが、「この話、最後はどうなるんだ?」と常に興味津々の状態で飽きずに観た。ただ、その「この話、最後はどうなるんだ?」は、ドキドキハラハラするたぐいのそれではない。平凡な住宅地で暮らしている人々の生活を「のぞき見」させてもらっている自分がいだく、「大きな声では言えない下世話な好奇心」に近い感覚だった。

 居心地の悪さを覚えながらも微笑をたたえて、主婦仲間たちと行動を共にしているサラ。ゴージャスな妻のアクティヴさと期待に、実は無意識のうちに耐えられなくなっていたと思われるブラッド。聡明だが、自分の夫という最も身近な人物の真意はまったく理解してあげられない、ブラッドの妻・キャシー。母親のことは心から愛していて、かつ、彼女に依存しているペドフィリアのロニー。ロニーを糾弾することに自身の存在意義を見出している元警察官のラリー。息子を大きな愛で見守り、また、彼を護るためなら体を張ることも厭わない、ロニーの老いた母・メイ。こういった人々が、主な登場人物。

 上に挙げたキャラクター以外にも多くの人々が登場するが、誰もが「隣に住んでいそう」だったり「職場にいそう」だったり「ともすれば自分も置かれかねない状況にありそう」だったりする。だから、身近に感じることのできる面々である。決して、「親近感を覚える」のではない。必ずしも彼女たちや彼らに好感をいだけるわけではないから。そのため、あくまでも「身近な感覚」であって、親近感とは似て非なるものだ。

 前述したように、ユーモラスなシーンも時折あるのだが、皮肉がベースにあるユーモアなので、私はまったく笑えなかった。背筋が寒くなりはしたが。とはいえ、この映画がつまらなかったわけではない。それどころか、「興味深い」という意味で、非常に面白かった。人間観察や人物分析が好きな自分にとって、巧みな人物描写のオンパレードともいえるこの手の映画は、美味しい材料にこと欠かなかったから。

 巧い演出に巧い役者が揃って初めて、上質なヒューマン・ドラマになる。各所で書かれていることだが、サラ役のケイト・ウィンスレットと、ロニー役のジャッキー・アール・ヘイリーの演技には脱帽。ロニーの母を演じたフィリス・サマーヴィルも説得力抜群。サラやブラッドの子供を演じた子役さんも上手で、とにかく、端役に至るまでひとり残らず名演技だった。

 ところで、この映画には、物語の展開を説明するのにナレーションが多用されていた。あの声、どなただったんだろう?

 サラとブラッドは、公共の場で互いの子供を連れて逢瀬を重ねる。「子供の存在」を隠れ蓑に、親同士として堂々と逢っているということ。それを見ていて、久々に思い出したことがあった。自分が5歳くらいの頃、父親に連れられてたびたび、ひと組の母子と会わされていたことがあったのだ。父とその女性が外出をしているあいだ、彼女の子供の相手をするよう父に言いつけられて仕方なく言葉に従っていたのだが、当時の私はまだ、「親の浮気」とか「不倫」とかいった言葉を知らなかった。それでも、その母子の存在やそういった状況について自分の母親に言ってはいけないのだということを、漠然と悟っていたように思う。だから、懸命に口をつぐんでいた。そのうっとうしい母子の存在に関して、自分の母に限らず、とにかく誰にも決して言わなかった。後年、私が黙っていたにもかかわらず母は総てを察知していたと知り、また、父の愛人の子は私の腹違いの弟だったという非常にむかつくおまけまでついていたが、総てが明るみに出たそのとき、私が感じたのは、「あんなに頑張って口をつぐんでいる必要、なかったんじゃん」という拍子抜けの思いだった。

 悪い言葉を使えば、「子供をダシに使って」逢瀬を重ねていた、サラとブラッド。『リトル・チルドレン』の秀逸なラストのあとに、キャラクターたちがどういう人生をたどるのかは推して知るべしというところだが、サラとブラッドのそれぞれの子供は、「あのとき、自分の親は浮気してたんだ」と、分別のつく年齢になってから必ず気づくはず。そのときに子供たちが怒るのか、呆れるのか、脱力するのか、苦笑するのか、嘲笑するのか、あるいはその全部か、人それぞれだからわからないけれど、いずれにせよ「必ず気づくはず」なのだ。そして、気づいたら最後、「決して忘れない」。

観た日:2007年9月16日(日)@Bunkamura ル・シネマ

お気が向かれたら → fc2rankbn2 人気blogランキング

↓お気に入りブログさまのレビュー↓
リトル・チルドレン:或る日の出来事さま
リトル・チルドレン:レザボアCATsさま

↓参考↓
リトル・チルドレン@映画生活
「リトル・チルドレン」の映画詳細、映画館情報はこちら >>

テーマ : お気に入り映画 - ジャンル : 映画

12:56  |  映画語り:ドラマ  |  TB(7)  |  EDIT  |  Top↑

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://kanno.blog10.fc2.com/tb.php/1124-c278117e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

映画『リトル・チルドレン』

原題:Little Children 公園デビューを無事果たしたプロム・クイーン、プロム・キングとのハグ&キスは空虚な思いの隙間を埋め、行き着くとこまで突き進むに十分な出来事?・・ 特に美人というわけではないサラ(ケイト・ウィンスレット)だけど、裕福な家庭に
2008/07/25(金) 01:33:49 | 茸茶の想い ∞ 〜祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり〜

『リトル・チルドレン』\'06・米

あらすじ郊外の住宅地で夫と娘と暮らすサラ(ケイト・ウィンスレット)は、その生活にうんざりしていた。ある日、彼女は主婦たちの憧れの的であるトッド(パトリック・ウィルソン)と話をする機会を得る。主夫である彼とサラは意気投合し、お互いの子どもを連れて会うよう...
2008/02/23(土) 14:11:15 | 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映画 ブログ

リトル・チルドレン−(映画:2007年133本目)−

監督:トッド・フィールド    出演:ケイト・ウィンスレット、パトリック・ウィルソン、ジェニファー・コネリー、ジャッキー・アール・ヘイリー 評価:83点 公式サイト (ネタバレあります) リトル・チルドレン=大人になりきれない大人達、の物語。 郊...
2007/11/29(木) 01:26:08 | デコ親父はいつも減量中

リトル・チルドレン“大人になれない大人たち”

  ケイト・ウィンスレットが脱いだ!なんていうのはちょっと大げさなのかも・・・・・。 彼女がこういう役を演じるのは「えぇ〜〜!」って感じだった。私個人の印象は上品なイメージだったし・・・・。かなり濡れ場も多いです。結構かな?でも体当たりに演じているケイ...
2007/10/10(水) 00:43:01 | 銅版画制作の日々

リトル・チルドレン - 母子関係という神話

居場所のない人々  最初 これはコメディではないかと思い 笑っていいのか悪いのか とまどってしまいました。 イマドキ 歴史とか コスチューム系の映画くらいしかない ナレーション。 しかも 重々しい
2007/09/27(木) 05:34:34 | Lost in Australia 

リトル・チルドレン

 『今の自分を愛せたら、 未来はきっと変えられる 心の中で、大人と子供が揺れている。幸せ探しの物語』  コチラの「リトル・チルドレン」は、トム・ペロッタのベストセラー小説を自ら脚色した脚本を「イン・ザ・ベッドルーム」のトッド・フィールド監督が映画化した...
2007/09/24(月) 23:32:45 | ☆彡映画鑑賞日記☆彡

#118.リトル・チルドレン

痛々しいほどリアルな人物描写が、ズキズキ来る。人物描写をどこまでも的確に、等身大に、ずるいところも、成長できていない部分も、欠けている部分も・・・。あからさま、とすら言えるほどのこの写実的な描き方は、ひたすら胸をエグる。 ネタバレの感想です。
2007/09/24(月) 12:15:04 | レザボアCATs

▲PageTop

 | HOME | 
SEO対策:映画 SEO対策:日本映画 SEO対策:恋愛映画 SEO対策:洋画 SEO対策:小説