『ラヴェンダーの咲く庭で』を観たよ。
『ラヴェンダーの咲く庭で』
原題:"LADIES IN LAVENDER"
2004年・イギリス・105分
監督・製作総指揮・脚本:チャールズ・ダンス
製作:ニコラス・ブラウン ニック・パウエル 他
製作総指揮:ビル・アラン エマ・ヘイター 他
原作:ウィリアム・J・ロック
撮影:ピーター・ビジウ
音楽:ナイジェル・ヘス
ヴァイオリン演奏:ジョシュア・ベル
出演:ジュディ・デンチ マギー・スミス ダニエル・ブリュール
ナターシャ・マケルホーン ミリアム・マーゴリーズ 他
舞台は1930年代のイギリス。ひなびたコーンウォール地方でひっそりと暮らす老いた姉妹がいた。内気なアーシュラ(ジュディ・デンチ)と、その姉で未亡人のジャネット(マギー・スミス)である。ある日、姉妹は浜辺で倒れていた青年を発見する。アンドレア(ダニエル・ブリュール)と名乗るその端正な青年はポーランド人のヴァイオリニストで、乗っていた船が難破してこの地へ打ち上げられたらしい。怪我をしているアンドレアを、姉妹は自宅に泊めて看病するが、やがてアーシュラの心に複雑な感情が芽生えてくる。それはどうやら、アンドレアへの「恋心」で……。
揃ってデイムの称号を持っていて、揃ってオスカー女優の、ジュディ・デンチとマギー・スミス。貫禄と威厳と名声の象徴みたいなふたりの大女優が、「田舎の物静かなおばあさん」を、見事すぎるほどの冴えなさっぷりで演じている。あたりまえながら、もう……、すこぶる巧いよ。特にジュディ・デンチ。アーシュラのあの地味さとあの「うぶ」っぷり、……凄すぎるって。
私の勝手な印象では、マギーのほうがジュディより若いと思っていたので、ジュディが妹役と知ったときには「あれ?」と思ったのだけど、調べてみたら、おふたりは1934年12月生まれの同い年だった。今年71歳。
……こういう映画、大好きだ。イギリスの美しくのどかな田園風景の中で、ゆっくりゆったり展開されていく、目立たないけれど実は緻密な心理描写が駆使されいてる、そんな物語。優しくて温かい作品だ。ただ、決してそんなハート・ウォーミングな要素だけではない。見ようによっては、毒や棘もしっかりと胸に襲ってくると思う。
息子、いや、孫ほどに歳の離れている若い男に恋をする、老女のアーシュラ。……これは私の憶測でしかないのだが、アーシュラはもしかしたら、貞操を誰かに捧げる機会を得られないまま、つまり処女のまま、老後という「今」を迎えたのかもしれない。「淡い初恋」以上の恋愛感情をいだく経験をしたことのないまま、年月を重ねてしまったのかもしれない。彼女の言動の端々から「そうなんじゃないかな?」と思わせる材料が匂ってくるし、時代背景を考えれば、ありえないことでもなさそうだ。アンドレアと接するとき、アーシュラはまるで少女のごとく、恥じらったりはしゃいだり悩んだり、と忙しい。彼女のそんな態度は、現代の言葉にすると「イタい」と表現されても仕方ないものである。アーシュラからイタさを連想せずに、「かわいいおばあさんだなぁ。女の人はどんなに歳をとっても恋ができるんだなぁ」と好意的な感想をいだくことのできる人は、……とても心が温かい人なのだろうな、と思う。
私の目に、アーシュラはとても「イタい」老女に映った。しかし、その一方で「彼女の言動こそ『女』の本質だ」とも感じた。恋心をいだいて恥じらい、はしゃぎ、悩むという、この一連の恋愛パターンに、……年齢は、やはり関係ないのだ。確かに、「イタく」見えもするだろう。歳をとった女だからこそ余計に、惨めに映る可能性も高いだろう。だが、もしも自分が、恋の成就を知らないまま老齢を迎えていたら、と想像してみよう。……「自分はアーシュラのようにはならない」と、少なくとも私は、絶対に断言できない。そう思うと、イタかろうが、惨めに見えようが、……アーシュラを嘲笑することも、軽く流すことも、決してできなくなってしまったのだ。
アンドレアを演じたのはダニエル・ブリュール。『グッバイ、レーニン!』を観たときから気になっていた俳優さんだが、今後も気になり続けてしまいそうだ。ヴァイオリン・ソロの音を務めたのは、「顔のよいヴァイオリニストの元祖」ともいえるジョシュア・ベル。白状すると、ジョシュアが演奏を担当していると知ったから、私はこの映画を観に行ったようなものだった(私はヴァイオリンという楽器とその音に、自分でも呆れるくらい執着と思い入れがある)。で、つまり、ダニエルはヴァイオリンを弾く真似をしていて、その音をあてているのはプロ・ヴァイオリニストのジョシュアってわけ。「あ、ダニエルはヴァイオリン弾けないんだね」っていうことは、ヴァイオリン演奏の型がどんなものか知っている人間の目には一瞬でばれる。すぐわかっちゃうよ。
でも、ヴァイオリン弾いているのが誰だろうと、アンドレアを演じたダニエルがヴァイオリン弾けないんだろうと、……そんなことは、もう、どうでもよくなっちゃった。……こんなにリアリティ重視嗜好で、こんなにヴァイオリン好きの自分が、「どうでもよくなった」なんてほざいていることが、私自身一番びっくりだよ。
よい映画だった。……ううん、よかったっていう以上に、「考えさせられる」ということを、危機感や深刻性に襲われつつも「愉しめた」、……私にとっては、そんな貴重な1本だったんだ。
観た日:2005年8月24日@Bunkamura ル・シネマ






