ごはんの支度をしながら、気の合う映画を想うのが好き。字書き屋・香ん乃がお贈りする、インフォメーション・シネマ感想文・雑記など。 
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2006/03/11 19:28    「美神」に会った。
 久々に生で観るヴィヴィアナ・デュランテ。3月11日の今日、Kバレエ・カンパニーの『眠れる森の美女』(マチネ@東京国際フォーラム)を観に行ってきた。

 オーロラ姫はヴィヴィアナ・デュランテ。フロリムント王子はカルロス・マーティン。カラボスは、なんとサー・アンソニー・ダウエル! 「きゃあああっ♪」って感じだった。

 しかし、もっとすごい「きゃあああぁぁぁぁっっっ!!」が、公演終了後に待っていた。

 ヴィヴィとマーティンの握手会が、舞台後にひらかれたのだ。先着300名無料。特になにか買ったりする必要もなく、早く並びさえすればOKの握手会。会場でアナウンスを聞くまで、この企画があることを知らなかったから、まずは心底驚いた。

 ……こんな幸運があってよいのでしょうか。

 並びました。握手できました。……ヴィヴィの目を見て、握手ができました。

「世界で一番好きな有名人」が、私にとってはヴィヴィアナ・デュランテ

 好きな有名人はたくさんいるけど、真っ先に思いつくのはヴィヴィ。……彼女のバレエを生で観られるだけでも幸せなのに、至近距離で会えたなんて。握手できたなんて。

 行列に並んでいるあいだから、緊張のあまり、涙ぶわぶわになってしまった。ヴィヴィの目の前に立ったときには、もう完全にぼろ泣き状態。にっこり笑ってもらえたことも、温かい手で握手してもらえたことも憶えてはいるけど、頭の中は今もふわふわ。なにせ、この感激の出来事からまだ2時間程度しか経ってないんだもん。

 ……思い出したら、また泣けてきた。

"Hello."と"Thank you."しか言えなかった。今までヴィヴィからもらった感動や歓びの重さと量を思えば、伝えたいお礼、"Thank you."ひとつじゃ全然足りないのに(とはいえ、たとえ正気でも私に英語がぺらぺらしゃべれるわけじゃないが)。

 握手会でのヴィヴィは黒い私服に白いストールかカーディガンを羽織っていて、髪はおろしていて、多分ノー・メイクだった。……素敵とか綺麗とか可愛いとかっていう形容じゃ表現しきれない。ミューズなの。昔も今も、私にとってのミューズって、ヴィヴィだけだ。

 さて、公演そのものも、もちろんよかった。ビデオでは文字通り擦り切れるほど観たヴィヴィの『眠り』だけど、生では初めて。「オーロラ姫といえばデュランテ」と、彼女のあたり役のように言われていた頃もあったくらい、ヴィヴィのオーロラは愛らしくて、よい意味でクラシカル。

 とはいえ、私には、ジゼルだろうがジュリエットだろうがカルメンだろうが、ヴィヴィが踊るキャラクターすべてが、彼女のあたり役だが。

 ところで、Kバレエの次の公演は『ジゼル』。このツアーにもヴィヴィは参加するようなのだけど、……アルブレヒトの配役しか出てなくて、ヴィヴィの(っていうか、ジゼルを演じるダンサーの)出演日、私が調べた限りじゃわからなかったから、チケット取ってないの……。もちろん、公演直前にまた調べてはみるけどさ……。うぅぅぅぅ……。

 でも、とにかく今日は、……宝石の時間をいただけた日となった。

 一生忘れない。
 この映画ができてから、今年で50年。でも、人ってさ、全然変わってないのね。

『洲崎パラダイス/赤信号』
1956年・日本・81分
監督:川島雄三
助監督:今村昌平
製作:坂上静翁
原作:芝木好子
脚本:井手俊郎 寺田信義
撮影:高村倉太郎
音楽:真鍋理一郎
出演:新珠三千代 三橋達也 轟夕起子
   河津清三郎 芦川いづみ 小沢昭一 他

 女郎あがりの蔦枝(新珠三千代)と優柔不断で甲斐性のない義治(三橋達也)は、行く宛ても金もない。ふらふらしているうちにたどりついた居酒屋に「女中募集」の告知を見つけ、蔦枝はほぼ押しかけ状態で、この店で住み込みの女中をすることにした。居酒屋の女将・お徳(轟夕起子)は、義治にも蕎麦屋での仕事を見つけてきてくれるが……。

 日活本社の試写室で行われた、Pause主催のDVDシアターという上映会で観た。参加者はおそらく20名にも満たなかったはずだ。そんな小規模な上映会なのに、プロの映画評論家による生トークでの作品解説もついて、無料である。……こんなささやかなイベントで、日活に利益は生じるのだろうか、と呆れまじりに驚いたが、参加させてもらえた私はほくほくと得した気分だ。こういった機会でもない限り、決して観ることはなかった映画だと思われるから。

 洲崎は木場の近く。劇中に出てくる電気街の「神田」は、現在の秋葉原。印象的な舞台として使われている、交通量がまだ少ない時代の勝鬨橋。この界隈は今の私がちょくちょく訪れる、結構なじみ深い場所。だから、こういった土地の50年前の姿を、とても嬉しく、興味深く見た。

 蔦枝が働くことになる居酒屋は、「洲崎パラダイス」へ続く橋のたもとにある。洲崎パラダイス ― 洲崎遊郭 ― は、いわゆる赤線地帯。それゆえ、居酒屋に寄る男たちの多くは、これから女を抱きに行く者か、女を抱いてきた者である。劇中の台詞を借りると、男たちは「娘ほど歳の離れた女が好き」らしい。遊郭の近くで商売をする人々は、顔を合わせればまず天気や気温の話をし、浮気して蒸発した夫を忘れられない女がいるかと思えば、せっかく裕福な男とつきあえたのに昔のだめ男が忘れられない女もいる。

 ほら、……現代と一緒だよね。人の生活も、よくないところも、憎めないところも、さ。

 軽妙洒脱で、粋で、なのに生々しい、愛すべき人間ドラマであると思う。愛情も人情も悲哀も歓びも官能性も、映像として映っている度合いはほどほどなのだが、だからこそ、そこからいくらでも、かつ、たやすくサイド・ストーリィや妄想を頭に思い浮かべられる。それが愉しい。すこぶる愉しい。

「こういう美しさは、今の時代の女優にはない」というような表現をして、まるで現代の役者をけなすかのごとく昔の役者を褒めちぎるのが、私はあまり好きではない。ただ、新珠三千代演じる蔦枝が、この作品で溌剌と艶めいているのを見て、「『清し女』とは、こういう女のためにある言葉なんだろうなぁ」と、なんだか妙に納得してしまった。

 東京という場所が、私はとにかく好き。ダイレクトな「風俗」が見せてくれる事実には、芸術や教科書よりも、信頼性があるとも思っている。だから、こういう映画が好き。

「本物で本質」の人間の匂いがするもん。

上映日:2006年3月9日(木)@日活試写室