『名探偵のキッシュをひとつ/チーズ専門店1』を読んだよ。
2012.05.13 14:21|本語り:海外ミステリ小説|

『名探偵のキッシュをひとつ/チーズ専門店1』
"The Long Quiche Goodbye"
著:エイヴリー・エイムズ(Avery Aames)
訳:赤尾秀子
発行:原書房(コージーブックス)
オハイオ州でチーズ専門店を営むシャーロット・ベセットが探偵役を務めるミステリ・シリーズの第1弾。2010年度のアガサ賞最優秀新人賞受賞作。シャーロットの一人称で書かれている。
アメリカはオハイオ州の小さな町、プロヴィデンス ― 30歳代のシャーロット・ベセットは、いとこでソムリエのマシュー・ベセットと共同で、チーズとワインのショップ「フロマジュリー・ベセット」を経営している。引退した祖父から引き継いだ店だ。家族の想いがつまっているこの店を更に発展させるため、シャーロットたちは店舗を改装した。リニューアル・オープンのパーティーを催した日、地元の不動産業者エド・ウッドハウスが刺殺された。あろうことか、凶器はシャーロットの店にあったナイフ。第一容疑者として名前があがったのは、シャーロットの祖母で現職の町長でもあるバーナデット・ベセットで……。
祖母の身の潔白を証明しようと、孫のシャーロットが素人ながら殺人事件の調査に乗りだす ― コージー・ミステリの王道と言いたくなる幕開けだが、表紙のかわいらしいイラストや、「チーズ・ショップのオーナーが主人公」といった要素から連想しやすい、「のどかに綴られる、軽くて明るい雰囲気のコージー」とは、少し違う。
シャーロットは過去に恋愛で手痛い目に遭っており、また、祖父母と仲のよい理由も、「若くして両親を失ったから」。いとこのマシューには双子の小さな娘がいて、三人でシャーロットの家に居候しているのだが、その理由は、「マシューの元妻が夫と娘たちを捨てたから」。結果、シャーロットは双子の母親的な役割も担っている。恋愛対象の男はいても、古傷が疼いてなかなか積極的になれない彼女。それ以前に、店の経営と双子たちの世話に追われて、恋どころか、息抜きをする時間すら満足にとれない。店の金勘定や人間関係に対するシャーロットの視点は、とても冷静でシビア。祖母・バーナデットの無実を信じるシャーロットと家族たちの会話や雰囲気には、「あらぬ疑いをかけられた結果、周囲から冷たい扱いを受ける一家」の閉塞感や無念さがにじみ出ている。ときとして非現実的な雰囲気をかもすコージー・ミステリというよりは、「どこから見ても『現実的』」のドメスティック・ミステリ。レスリー・メイヤーのルーシー・シリーズや、ダイアン・デヴィッドソンのクッキング・ママ・シリーズを読んだときと似た感慨を覚えた。コージーよりもドメスティックが好きな私は、よい意味で予想を裏切られた。
祖父母、いとこ、姪、店の従業員、商品の仕入れ先の酪農業者、学生時代からの友達、昔なじみの警官等 ― 登場人物や容疑者はシャーロットにとって身近な人間ばかりで、個性的なキャラクターは多いが、突出してエキセントリックな人物はいない。この点にも、非常にリアリティを感じる。また、シリーズ第1作ということで、「今後、誰がレギュラー・キャラクターになるのか」がわからず、「レギュラー=犯人ではない」のお約束が成りたたないため、フーダニットの予想がつけにくくて、楽しくはらはらしながら読み進めることができた。シャーロットの恋の相手も、一応、本命と言ってよさそうな男が登場するが、「本当に彼なの? ○○もシャーロットのことを好きなんじゃないの?」とお節介な想像をしたくなるキャラクターもいて、次作以降で詳しく書かれると思われる恋模様からも、あらゆる意味で目が離せない。シリーズの世界観も雰囲気も自分の好みにストライクすぎたので、今後の邦訳刊行が心の底から待ち遠しい。
チーズやワインに関する記述はもちろん、飲食シーンの描写は全体的に克明。巻末には、劇中で登場した料理のレシピも掲載されている。
テーマ:推理小説・ミステリー
ジャンル:本・雑誌
タグ:海外ミステリ 推理小説 名探偵のキッシュをひとつ コージー エイヴリー・エイムズ 赤尾秀子 コージーブックス 原書房 ドメスティック アガサ賞













