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映画情報サイト【ミニシアターに行こう。】
 友人と香ん乃で共同運営している映画情報サイト。「ミニシアターで映画を観る楽しみと、そこで上映される作品の魅力」を、女性ライター独自の視点でご提供しています。単館ならではの映画・マニアックな映画祭・自主映画・学生映画をメインにご紹介。また、映画イベントの取材リポートと映画人へのインタビューも鋭意更新中。サイトに併せて、ミニシアのtwitterと、ミニシアのFacebookページも、ぜひご活用ください。

長編小説『添寝請負人』
 この作品に関しましては、2012年に新しい内容・形態でお届けさせていただく準備が進んでおります。近々、告知させていただけるかと存じます。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

『名探偵のキッシュをひとつ/チーズ専門店1』を読んだよ。

2012.05.13 14:21|本語り:海外ミステリ小説
名探偵のキッシュをひとつ (コージーブックス)

『名探偵のキッシュをひとつ/チーズ専門店1』
"The Long Quiche Goodbye"

著:エイヴリー・エイムズ(Avery Aames
訳:赤尾秀子
発行:原書房(コージーブックス)

 オハイオ州でチーズ専門店を営むシャーロット・ベセットが探偵役を務めるミステリ・シリーズの第1弾。2010年度のアガサ賞最優秀新人賞受賞作。シャーロットの一人称で書かれている。

 アメリカはオハイオ州の小さな町、プロヴィデンス ― 30歳代のシャーロット・ベセットは、いとこでソムリエのマシュー・ベセットと共同で、チーズとワインのショップ「フロマジュリー・ベセット」を経営している。引退した祖父から引き継いだ店だ。家族の想いがつまっているこの店を更に発展させるため、シャーロットたちは店舗を改装した。リニューアル・オープンのパーティーを催した日、地元の不動産業者エド・ウッドハウスが刺殺された。あろうことか、凶器はシャーロットの店にあったナイフ。第一容疑者として名前があがったのは、シャーロットの祖母で現職の町長でもあるバーナデット・ベセットで……。

 祖母の身の潔白を証明しようと、孫のシャーロットが素人ながら殺人事件の調査に乗りだす ― コージー・ミステリの王道と言いたくなる幕開けだが、表紙のかわいらしいイラストや、「チーズ・ショップのオーナーが主人公」といった要素から連想しやすい、「のどかに綴られる、軽くて明るい雰囲気のコージー」とは、少し違う。

 シャーロットは過去に恋愛で手痛い目に遭っており、また、祖父母と仲のよい理由も、「若くして両親を失ったから」。いとこのマシューには双子の小さな娘がいて、三人でシャーロットの家に居候しているのだが、その理由は、「マシューの元妻が夫と娘たちを捨てたから」。結果、シャーロットは双子の母親的な役割も担っている。恋愛対象の男はいても、古傷が疼いてなかなか積極的になれない彼女。それ以前に、店の経営と双子たちの世話に追われて、恋どころか、息抜きをする時間すら満足にとれない。店の金勘定や人間関係に対するシャーロットの視点は、とても冷静でシビア。祖母・バーナデットの無実を信じるシャーロットと家族たちの会話や雰囲気には、「あらぬ疑いをかけられた結果、周囲から冷たい扱いを受ける一家」の閉塞感や無念さがにじみ出ている。ときとして非現実的な雰囲気をかもすコージー・ミステリというよりは、「どこから見ても『現実的』」のドメスティック・ミステリ。レスリー・メイヤーのルーシー・シリーズや、ダイアン・デヴィッドソンのクッキング・ママ・シリーズを読んだときと似た感慨を覚えた。コージーよりもドメスティックが好きな私は、よい意味で予想を裏切られた。

 祖父母、いとこ、姪、店の従業員、商品の仕入れ先の酪農業者、学生時代からの友達、昔なじみの警官等 ― 登場人物や容疑者はシャーロットにとって身近な人間ばかりで、個性的なキャラクターは多いが、突出してエキセントリックな人物はいない。この点にも、非常にリアリティを感じる。また、シリーズ第1作ということで、「今後、誰がレギュラー・キャラクターになるのか」がわからず、「レギュラー=犯人ではない」のお約束が成りたたないため、フーダニットの予想がつけにくくて、楽しくはらはらしながら読み進めることができた。シャーロットの恋の相手も、一応、本命と言ってよさそうな男が登場するが、「本当に彼なの? ○○もシャーロットのことを好きなんじゃないの?」とお節介な想像をしたくなるキャラクターもいて、次作以降で詳しく書かれると思われる恋模様からも、あらゆる意味で目が離せない。シリーズの世界観も雰囲気も自分の好みにストライクすぎたので、今後の邦訳刊行が心の底から待ち遠しい。

 チーズやワインに関する記述はもちろん、飲食シーンの描写は全体的に克明。巻末には、劇中で登場した料理のレシピも掲載されている。

テーマ:推理小説・ミステリー
ジャンル:本・雑誌

タグ:海外ミステリ 推理小説 名探偵のキッシュをひとつ コージー エイヴリー・エイムズ 赤尾秀子 コージーブックス 原書房 ドメスティック アガサ賞

『パリごはん』を読んだよ。

2012.05.08 15:58|本語り:その他
パリごはん (幻冬舎文庫)

『パリごはん』
著:雨宮塔子
発行:幻冬舎(幻冬舎文庫)

「お料理の本、好きでしょ? 読み終えたから、あげる」と、お友達にいただいたので読んだ1冊。

 元TBSアナウンサーで、現在はパリ在住の著者・雨宮塔子さんが、食に関することをメインに日記形式で綴っているエッセイ。文中に登場する人物に具体的な説明がない場合も多いので、雨宮さんのこれまでの著作を読んでいなかったり(私はそうだった)、彼女のご主人がパティスリー・サダハルアオキ・パリのシェフ・パティシェの青木定治さんだと知らなかったりすると(このことは知っていた)、どなたのなにについて書かれているのかよくわからない記述も結構あるように思う。

 パリ在住のご家族やご友人たちと雨宮さんが、パーティを催したり、外食や旅行をなさったりしたときの、リポート的な内容。料理写真や簡単なレシピも多数。パリで子育てをする喜びと難しさ、「在住組と駐在組の違い」等、食とは直接関係はなくても興味深いエピソードもある。家庭での青木さんや「素顔のピエール・エルメさん」等に関する描写もあるので、フランス菓子が好きなら好奇心を刺激される。

 著者が異国で地に足をつけて暮らすようになられるまでには、きっとあらゆる苦労があって、現在も大変なことは山ほどあるのだろう、と拝察できても、庶民が妬んだ目で読んでしまうと、「優雅な暮らしで、羨ましいわねぇ」と、つい言いたくなる部分も多い1冊ではあった。ただ、優雅で楽しく見える部分だけを敢えて書いているのだろう、とは思う。

テーマ:読んだ本。
ジャンル:本・雑誌

タグ:パリごはん 雨宮塔子 幻冬舎 幻冬舎文庫 サダハル アオキ 青木定治 ピエール・エルメ エッセイ 料理エッセイ

『最後のドアを閉めろ!』、『開いてるドアから失礼しますよ』、『ありえない二人』を読んだよ。

2012.05.07 10:38|本語り:その他
 山田ユギ先生のボーイズラブ漫画を3作。すべて電子書籍のコミックシーモアで読んだ。


最後のドアを閉めろ! 1 (新装版) (ビーボーイコミックス) 最後のドアを閉めろ! 2 (新装版) (ビーボーイコミックス)

『最後のドアを閉めろ!〔1〕・〔2〕』
著:山田ユギ
発行:リブレ出版(ビーボーイコミックス)

 ジューン・ブライド ― 大学と会社、両方の後輩である斉藤の結婚式に出席した永井。友人代表のスピーチも笑顔でこなした永井だが、心中では泣いていた。斉藤を好きだったからだ。披露宴をあとにした永井がバーで自棄酒を煽っていると、本田という男が声をかけてきた。新婦 ― つまり、斉藤の妻が働いている会社の同僚だという。酔った勢いもあって、本田にやつあたりをする永井だが……。

 結婚した斉藤にもある大事件が起こり、永井・本田・斉藤の三角関係に発展する。斉藤の妻や永井の昔の彼女も絡んできて、恋愛模様は更に複雑に。「分別のあるおとなだからこそ、社会人だからこそ、意地を張らなくてはならない場合もある」 ― そこから生じるせつない展開や心理描写がリアルで、ときめきと共感を繰り返しながら一気に読んだ。「リーマン系BLが好きなら、山田ユギ先生の作品ははずせないよ!」と友人たちから薦められていて、初めて読んだのが本作だったのだが、読了したときには、山田先生の大ファンになっていた。そして、「永井をめぐる恋模様も楽しいけど、本田の兄たちの関係もすごく気になるんだよなぁ」と思っていたら……。


開いているドアから失礼しますよ (新装版) (ビーボーイコミックス)

『開いてるドアから失礼しますよ』
著:山田ユギ
発行:リブレ出版(ビーボーイコミックス)

 税務署に勤める本田正一は、仕事の関係で弟の俊二と偶然の再会を果たした。10年前、ある出来事をきっかけに、俊二は本田家を出て行ったのだ。彼が姿を消した理由は自分にある、と正一は思っている。10年前に起こったことに対する気まずさを感じさせないように振る舞う俊二に、正一はかえって戸惑うが……。

『最後のドアを閉めろ!』の本田には、兄がふたりいる。その「本田家の長男と次男」の物語。本田家の複雑な家族事情についても詳しく描かれている。「THE 堅物」と言いたくなる正一の性格を誰よりも理解して、彼を支えつつもひくべきところはわきまえている「おとなの攻・俊二」の健気さがたまらない。『最後のドアを閉めろ!』の本田と永井も登場して、スピンオフ的な楽しさも味わえる。


ありえない二人 (バンブー・コミックス 麗人セレクション)

『ありえない二人』
著:山田ユギ
発行:竹書房(バンブー・コミックス 麗人セレクション)

 頑固な鞄職人と、ちょっと軽薄なWebデザイナー(表題作『ありえない二人』)。2年前まで一緒に暮らしていた相手との再会から始まる物語(『死ぬまえにやっておきたいこと』)。バーのマスターと、スポーツ・インストラクターの常連客(『ああ爆弾』)。高校時代に男をふった実業家が誘拐される物語(『檻』)。4シリーズからなる作品集。

 ユーモアたっぷりに明るく描かれた作品、胸の芯が痛むようなひたすらせつない作品等、山田先生ワールドをあらゆるテイストで堪能できる作品集。いずれの作品も大好きだが、個人的には、『ああ爆弾』にノックアウトされすぎた。バーのマスター(受)とスポーツ・ジムのインストラクターの恋をポップに描いた作品だが、マスターに惚れてバーの常連客になるインストラクターが「下戸」という点が、まず楽しい。また、このバーのマスターが、「店では礼儀正しくて髪型もオールバックだが、普段はだらしなくて『前髪もおろしている』」というギャップが格好よすぎる。「ちぎれんばかりに尻尾をふる犬」のようにまっすぐで単純なインストラクターに、リアリストのマスターがじわじわとほだされていく展開に、ときめきすぎて悶絶した。もう、読みながら何度も呼吸困難よ、萌えすぎて。舞台がショット・バーということで、カクテルの描写も多いのが、お酒好きには嬉しいところ。

テーマ:ボーイズラブ
ジャンル:アニメ・コミック

タグ:山田ユギ BL 漫画 ありえない二人 開いてるドアから失礼しますよ 最後のドアを閉めろ リブレ出版 ビーボーイ 麗人 竹書房

満員電車か、ジェット・バスか。

2012.05.04 08:46|乳がんになったよ
 結論から先に言うと、肋骨が折れましてね。

 先日、午前5時頃に突然、左胸に激痛があって。予兆はなにもなくて、本当にいきなりだった。ちょうど仕事が一段落して、「そろそろ、寝るかぁ」と考えていた頃合い。左胸は乳がんの患部で、手術をした部分でもあるから、ほかの部位が痛むときより恐怖がある。とはいえ、化学療法と放射線治療を受けるようになってからは、「ちょっとやそっとの異変は、治療の副作用でしかない」という場合が多いとわかっているので、痛いからと言ってすぐに大騒ぎをするのは禁物だと考えた。

 なので、横になってみた。少し休めば、痛みも治まるだろうと思ったのだ。しかし、1時間、2時間経っても、左胸の痛みは緩和しない。それどころか、痛みはどんどん増していく。内臓に問題がある痛みか、たとえばどこかにぶつけた等から生じた外部的な痛みか、いずれなのか判断しようにもまったく頭が働かないくらい、とにかく「痛くてたまらないよ!」という感じになってしまった。

 私が乳がんでかかっている外科のある病院は、救急もやっている。外来は休診の日だったが、「救急があるんだから、行ってもいいよね!?」という気分になってきた。救急車を使うのはさすがに気がひけたので、家の外に出てタクシーを拾った。どんな時間帯でもタクシーが走っている場所に住んでいる自分(とタクシー)に感謝。そのとき既に、歩くのがやっとで、タクシーの運転手さんにもぎょっとされるような状態ではあった。

 常連のように行き慣れたいつもの病院だけれど、救急にかかるのは初めて。お医者さんも看護師さんも、初めてお会いするかたがたばかり。痛くて滑舌もままならず、問診にもろくに答えられなかったが、診察券があるおかげで、自分がこの病院でどのような治療を受けてきたかがデータでわかるから、ありがたかった。救急のお医者さんに、「これまで生きてきて最も痛かった痛みを10とするなら、今の痛みはどれくらいですか?」と訊かれて、「6」と答えた。なんの参考になるのか、よくわからなかったけれど。本当に6なのかも、我ながら確信がないけれど。

 レントゲンを撮ったり、血液検査をしたりしたあと、「せっかく病院にいるんだから、強い鎮痛剤を入れておきましょう」と先生。種類はよくわからないけれど、点滴を3本することになった(もちろん、薬の説明はされたが、痛みに気をとられていて、難しいことはなにも頭に入らなかった)。いざ点滴という時点で、自ら歩くことができないくらい痛くなっていた。がらがらと動くベッドでカーテンの中へ運ばれて、そのまま点滴に突入した。文句をつけるようでなんだが、点滴の針がなかなか刺さらなくて、看護師さん3人交代→計7回刺し直しになり、当然ながら腕まで非常に痛いわ、腕にくっきりと痣が残るわで、もう散々だった。点滴中はまったく眠くなく、頭までほわっとしてくる薬が投与されたのもあって、やたらとハイになっていたのは憶えている。

 なんだかんだで、6時間くらいは病院にいたと思う。3本投与し終えたとき、痛みが完全になくなったわけではなかったけれど、「違和感はあるが、普通に生活できる」程度にはなっていた。すごいな、薬って。経口の鎮痛剤をもらって、タクシーで帰宅。帰る前、救急の先生に、「多分、肋骨が折れてます。休み明けに、外来で○○先生(←外科の主治医)に診てもらったほうがいいですよ」と言われた。

 なので、週明けに主治医に診てもらった。そして、左胸の肋骨が折れている、と改めて判明。

 言われてみれば、呼吸をするときが最も痛い。肋骨が折れたのは初めてだが、「息をすると痛いんだよ」とは聞いたことがあった。とはいえ、救急にかかった痛みMAXのときは、「なにをしたら、一番、痛いか」も考えられなかった。痛すぎて。ちなみに、軽度の肋骨骨折は、自然にくっつくのを待つしかないので、特にしてもらうことも自らできることもない。この記事を書いている現時点で、鎮痛剤はまだ服用しているけれど、呼吸をしても騒ぐほどは痛くなくなってきている。

 問題は、「なぜ、肋骨が折れたのか」である。

 骨が折れるほど、胸部をどこかに激しくぶつけた記憶はない。普段と違うなにかアクティヴなことをした憶えもない。

 ……と、主治医に言ったら、

「放射線治療で骨が弱ってるから、軽い衝撃でも結構折れちゃうんだよ」

 と答えられた。

 ……放射線治療で、骨が弱る?

 そんなこと、治療前の説明にはなかった。……と、お医者さんのせいにしたいわけではないが、まったく知らなかった。ただ、帰宅後、インターネットで検索してみたら、「放射線を照射した部位の骨は脆くなるので、骨折等をしないよう、日常生活で注意をするように」という記述がたくさん出てきた。ふと、精神科医に言われた言葉が蘇る。「患者は治療とその影響に関する知識を自ら得なくてはだめ。『患者は知識が豊富』と思って接する医者も多い。だから、『知らなかった』ということにならないように、自分で事前に調べる癖をつけなくちゃだめだよ」 ― 言われた、言われた。勉強、怠ってましたよ、ええ。

 で、「自分の肋骨は脆くなっている」とした上で、改めて、「最近、左胸になにか衝撃を与えただろうか?」と考えてみた。

 思い当たることが、ふたつ、出てきた。

 ひとつは、満員電車。久々に、ラッシュ時に電車に乗ったのだ。

 もうひとつは、スパの超強力なジェット・バス。「ハイパーなんとか」系のあれ。「心地よい刺激」なんてものを遥かにうわまわる激しいジェット・バスに、修行みたいな気分で浸かってた。それも、週に何度も。確かに、左胸もばんばんあの衝撃を浴びたと思う。

 本当に満員電車とジェット・バスのせいで折れたのかはわからないし、今となっては、原因なんてどうでもよいのだけれど、「その程度の衝撃でも骨が折れるかもしれないので、放射線治療を受けているor受けたかたは、ちょっと注意したほうがよいかもよ」というお話。化学療法や放射線治療は免疫力も下げるから、自己治癒力も乏しくなっているし、ね。

 とはいえ……、「体に衝撃や刺激を与えないために、いろいろなことを未然に防ごう」とばかり意識して生活するなんて、個人的にはあほらしいと思っている。ある程度の注意は必要でも、びくびくしすぎて暮らすのは楽しくない。だから、「ちょっと注意しなきゃ」なんて言っているけど、私は深く考えずにこれからも満員電車に乗るだろうし、ジェット・バスにも浸かると思う(敢えて、肋骨に向けて盛大にあてよう、とまでは思わないけどさ)。

 いろいろ面倒くさいよね、まったく。でも、気にしすぎたら、もっと面倒くさくなっちゃうと思うんだ。

テーマ:乳がん
ジャンル:心と身体

タグ:乳がん 乳癌 抗がん剤 抗癌剤 副作用 放射線治療 放射線 肋骨 骨折 化学療法

『ゴールデン・パラシュート』を読んだよ。

2012.05.04 01:22|本語り:海外ミステリ小説
ゴールデン・パラシュート (講談社文庫)

『ゴールデン・パラシュート』
”The Sweet Golden Parachute”

著:デイヴィッド・ハンドラー(David Handler
訳:北沢あかね
発行:講談社(講談社文庫)

 ニューヨーク近郊のドーセットに住む映画評論家のミッチ・バーガーと警察官のデズ・ミトリーの、ミステリ・シリーズ第5弾。三人称で書かれている。

 ドーセットに住む富豪の老婆プーチー・ヴィッカーズの高級車が盗まれた。容疑の目は、出所したばかりの不良の兄弟スティーヴィー&ドニー・カーショウに向けられるが、先入観で判断するのは禁物、と駐在のデズ・ミトリーは慎重だ。ときを同じくして、ホームレス同然の生活をしていたピート・モーシャーが、何者かに惨殺された。車の盗難とピートの殺害に関連がある可能性も加味して、デズたちの捜査は続く。一方、ミッチ・バーガーの手もとには、ドーセットの暗部を暴露していると思われる小説が持ちこまれて……。

「こんなにも独善的で身勝手な人々が、限られた狭い地域に集まるものだろうか」と皮肉を言いたくなるほど、今回の容疑者たちも屈折の度合いが半端ではない。「彼らが歪んで、自己中心的になっても、致しかたない」と納得できる理由の数々が初めから具体的に明示されているが、端的に言うと「セックスと金」で、このシリーズの過去の作品でも描かれ続けてきた題材だったから、「また、『この動機』か」という感覚は拭えなかった。

 富豪の一族と、そこに関わる人々が隠していた秘密が、ひとつ、またひとつと明らかになっていくにつれて、一見、無関係に見えていた事柄と人物が着実にリンクしていく。その筆致は、伏線の張りかた・拾いかたも含めて精緻で、読み応え充分。ただ、謎がじわじわと解明されていく過程が一貫して、「ミッチまたはデズが、誰かに話を聴きに行くと、ある事実が判明する」という手法になっており、「探偵役の聴きこみ調査だけで物語が進行している」ように映るため、個人的には、スリリングな起伏を味わうことができなかった。繰り返しになるが、読み応えは充分である。ページをめくる手がとまらなくなる作品ではあった。ただ、ストーリーテラーとして名高いハンドラーに、「あっと驚かせていただけるなにか」を期待していたので、肩透かしを食らった思いはした。

 しかし、「あっと驚かせていただけるなにか」は、本筋の殺人事件とは違う部分に、どっかーんと用意されていたのだ。

 今作では、ミッチとデズの恋人関係に変化が訪れる。これ以上、詳しくは書かないが、「続きが気になるあまり、週刊漫画誌の発売日まで待てなくて、早売りを手に入れたくて居ても立ってもいられなくなる」というようなタイプのかたは、「ミッチ&デズ・シリーズの第6弾」が邦訳されるまで、今回の第5弾を読まないほうが懸命と言えるかもしれない。少なくとも私は今、「今作と次作はまとめて読むべきだった……。次作の邦訳が刊行されるまで、この胸騒ぎを置いておける場所なんてないよ……」と消化不良の渦中にいる。

テーマ:推理小説・ミステリー
ジャンル:本・雑誌

タグ:推理小説 海外ミステリ ゴールデン・パラシュート デイヴィッド・ハンドラー 北沢あかね 講談社文庫 講談社 ミッチ・バーガー デズ・ミトリー

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  •  ご来訪、ありがとうございます。【マツヨイヤワ】++ツレヅレムソウ++は、映画紹介文や小説を書かせていただいている「字書き屋」香ん乃のブログです。お知らせや雑記をお届け中。雑記は読書感想文が多いです。
     海外ミステリ小説と恋愛映画が主食。フィギュア・スケートとバレエも好物。BGMはシャンソンとクラシック音楽。バンドの back number が大好き。ダイエタリー・ヴィーガン。只今、乳がん治療中。詳しいプロフィールはこちら
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